自給自足の山里から【97】「夢みるような結婚式」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【97】「夢みるような結婚式」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2007年1月16日号の掲載記事です。

大森ケンタさんの執筆です。

夢みるような結婚式

今、僕は二つの音を聞いている。好美の腹の赤ちゃんがドンドンと動く音と、彼女の胸から聞こえるドクンドクン。ひとつの命からもうひとつの命の音が聞こえる。
二月に父親になる。僕は大人になるにつれて、子どもの頃、トトロの草木のトンネル道と言って遊んだ獣道が、すばらしく生きている動物たちの鼓動と知る。
70㎏の雄鹿、100㎏の雄猪らは、僕と同じ大地に立つ。風が山の木に当たり、木の葉が飛ぶかのように僕と彼らは出会った。世界は広い。いつかどこかで、人は人に出会う。
大工を知り、家の柱や梁の一本一本のすばらしさを知り、恋を、そして失恋を知り、悲しみ……、再び恋しさを知り、僕は彼女に逢った。

僕と山の生き物たち、自然との生活が始まった朝日分校には、家の柱の傷に思い出あるように、廊下や体育館には傷がある、もうひとつの小さな家である。
一番楽しかったところである。ここで結婚式やろうと思った。子ども産まれて春にと思ったが、それは大変と聞いて、切迫早産の恐れも去った頃の12月2日にやろうと、父弟妹たちと家族会議で決めた。一ヵ月前のこと、急いで招待状を送った。
式の十日前、100㎏の大猪が捕れた。箱罠にかかった。熊かと思ったが、近づくと、「猪だぁ!」「メチャデケェ」。
好美とそろって、「ウァー、どうしよう」。二人の気持ちはドキドキ。好美は「落ち着いて、落ち着いて」と言う。家に戻り、手作りの槍を手にして、いざ出発!
好美は、離れたところで見ていた。一歩一歩近づくと、「グガォホー」と吠えた。「お前は猪だな?」、猪と思えない声。奴は一歩一歩後ろに下がると「グガォホー」と吠え、ドーンと飛ぶように走った!
箱の中を!ドーンと三人がかりで運ぶ重さが飛んだ!30~40㎝、僕に向かってくる。
タイミング見て槍を向けた時、ガブッと槍に噛みついたと思ったらバキィと折れた。急いで昔の大工道具の槍鉋で新しい槍を作る。錆びて先は丸くなっていたのを研いで、再び挑む。
猪がドーンと向かってきた時に心臓めがけ、槍の先に全身の力を込めて……たたかった。
炭焼きの斧から槍に代わった日でした。好美と二人で二日かけて捌いた。
「結婚式に猪鍋出せる。式に向けていい感じやな」と言っては、山を走り回る鳥取大学の探検部出身は、僕よりテンション高くはしゃいでいた。
猪は、山のいいものを食べている。ドングリ、どくだみの根、くずの根、沢ガニ、山芋、栗など。肉は赤い!
式の日、「おいしい!」と評判で本当によかった。山に感謝! 山からの最高の贈り物。うれしかった。

式は、人前方式で、分校体育館で行った。中学同級の百姓の岡村康平君が司会し、先生一人生徒の僕一人で始まった分校の時の山西先生に、立ち会い人代表で「朝日に根付いて実を実らせて下さい」と挨拶下さり、結婚賛同書にサインしてもらった。
式の中では、好美のじいちゃんから「これ使いな」と渡された“お屠蘇”で三三九度をして、夫婦のちぎりを交わした。和装でした。
分校時の先生方や、朝日に来て出会った人々、百姓友達・仲間たち、好美の家族・友人たち、お父さんの友人たちなど150人以上来てくれていた。
寒い中、たくさんの人々がそれぞれ自慢の一品持ち寄りで、豪華な料理が並んだ。手作りの式で、弟妹たちや仲間たちが手伝ってくれてよかった。楽しかった。
式の中は、歌あり、ジャンベでのダンスもあり、あっという間に流れ、夢を見ているようだった。

大きな飾りはなかったけど、花それは、来てくれた人々からの祝福の声こそが、花なんだなぁ。森の中に、音と声が無ければ、そこに人と暮らしは無い。
東ティモールに行った時、森の中で子どもたちの声が聞こえ、すばらしく感動した。来てくれた人々の表情と声、音こそが、山の中の分校に花として咲いた。
式の終わった次の日の朝、一段と冷え込んだ。この朝日のお山・床尾山を見上げれば、まっ白に、見事としか言えないぐらいの白銀の山。
式の後片付け終わりの帰り道、峠を越えたら、まっ赤な空と雲が、僕たちを照らしてくれた。今の世の中、農業・百姓は難しいが、僕たちなりに熱い想いを伝えられる大人になって生きたい。これからもよろしくお願いします。

式に参席下さった方からお父さんに便り届く。
「昌也さま。帰途の車中二時間、結婚式の余韻に酔いっぱなし。自分たちの結婚式を除き(?)、今まで参列した結婚披露宴で、あんなに感激したことはありません。すばらしいの一言です。何がすばらしいか。
そのⅠ。義理や体裁で来ている人がおらず、心からケンタ君、好美さん、そして大森家を祝福したい人ばかりの参席。そんな人ばかり百数十人。その一人一人が心をこめた料理をいっぱい持ってきているものだから、ごちそうの山々。おいしい!
そのⅡ。会場が良かった。分校の味わいある小さな校舎。その中で、みんなの手作りによる飾り付けや仕掛けの数々。きらびやかではないけど、心がいっぱい。あたたかい。
涙したことがふたつ。
その1。ケンタ君の言葉こそ少ないが、重たい重たいスピーチ。言葉は通じないけど東ティモールの猟師とともに響き合うもの、山の恵みへの感謝、準備した人々への感謝。心の琴線にガシャーンと触れました。
その2。あの西アフリカの太鼓。太鼓の音色とリズムを通し、生きる悦び、悲しみ、苦しみ、全てを含んだ叫び。苦労して太鼓奏法を手にした奏者の夢が現実になり、今、私の心と体を強く揺さぶる。どうしてあのような時と場ができあがったのかをつくづく考えた。それは、大森さん、あなたがいままであたたかい闘士、革命家であったこと。その『あたたかさ』ゆえがあの時と場をもたらしたんだ。たぶん……。 弘明」

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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